歌を忘れたカナリアは



歌を忘れたカナリアは



目覚めても悪夢、だ。

闇の濃い霧の海で再び目覚めてしまった。
痛みをこらえて上体を起こすと、ギシギシと嫌な音がする。


流れ着き誘い込まれてしまった幽霊島で、私は影を奪われた。
死者の手と、その死者を統べる手に弄ばれて
もう一人の私は、傀儡を操る魂にされてしまったのだ。

単純な敗北への悔しさと自分の不甲斐無さに歯ぎしりをする。
ギリリ、ギリリと固い物同士擦れる音が、穴だらけの船上に響く。
涙はとうに涸れたのに、泣きたい心地がする。
まだ私は何も守れないのだろうか。


「まさかこの私に、失うものが残っていたなんて」


泣けない私の骨だけの体は、ゆっくりと口を開いて笑みの形を作った。
ヨホホ、と掠れた笑い声が隙間風のように漏れる。
自嘲だ、こんなもの。狂っている。

あんな能力知らなかった。
七武海のゲッコー・モリアと呼ばれた男は、私の足元から影をはがし、
蠢くその黒を巨大な掌で握りしめ、意地悪く歯を見せ笑った。
薄れゆく意識の中で、私は叫びたかった。
やめてくれ、どうか
もう何も失くしたくないのに!



力無く伸ばした脚の先を見る。
せっかく磨いたばかりだったのに、自慢の革靴は泥で汚れてしまった。
そしてその下に、影は無い。
こうして見ると奇妙な光景だ。また、笑えてきてしまう。
在ることが当たり前すぎて、失うことなんて考えたことがなかった。

でも、奪われた。
失くしてしまった。

骨だけの我が身を抱きしめる。軋む程、強く。
あぁまた独り。
独り、独り、独りなのだ!



鉛色の空はますます重く、霧は吸い込めば胸を締め付け息苦しい。
今は亡き仲間達の面影を引きずったこの幽霊船で、私は恐怖に身を震わせていた。

付けられた傷よりも、知ってしまった孤独の方が、痛い。


しばらく、縮こまってじっとしていた。
霧が含んだ雨の匂いに溶かされてしまいそうだった。
それでも、ふと顔を上げると頭の上で黒い鳥が輪を描いて飛ぶのが見える。

まだ、間に合うのかもしれない。

思った瞬間、立ち上がっていた。
舳先まで走り、目をこらす。うっすらと見える巨大な船影。
引き返せる。もう一人の私を、取り返しに行ける。
あぁ、少しだけ希望が見えてきた!


白い指で、仕込み杖を握りしめる。
見据えるは、霧の向こうの幽霊島。

待っていてください、私の影。
もう一度、私の元へ
再び一つに。

こんどこそ、失いはしないから。


握った刀の隠した刃に、私は静かに祈りをこめた。
もう、絶望は いらない。



楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル