青空
日和
青空日和
お天気の神様は、ずいぶんとご機嫌がよかったらしい。
きらきらと眩しいくらいの美しい
青の絵の具で空は塗りたくられて、
週に一度のこの日はまさに洗濯日和だった。
この間は雨で流れてしまったせいで、今日洗うべき服の山はなかなかの量だ。
残念だけどいいお天気ね、とロビンに微笑まれ、
あんたたちいい加減にあの汚い山どうにかしなさいとナミに雷を落とされて、
野郎共は洗い桶といっしょに甲板へ飛び出していくしかなかった。
ガッシュゴッシュと布を擦り合わせる音、
ザブリザブリと水を波打たせる音。
その振動に合わせて石鹸の匂いのする泡が、
フワフワフワフワと増えていく。それはまるで雲のようで。
上にも空、下にも空。
「おや、チョッパーさん。雲がついてますよ」
音楽家の細い指が、チョッパーの頬の辺りについた泡をちょん、と拭いとる。
一瞬キョトンと目を丸くした小さな船医は
その意を知ってエッエッエッエと嬉しそうに笑った。
「雲か!雲だなホント。空島みたいだ!」
洗い桶を覆ってしまうほどの泡はまるで島雲。
少し前の冒険に思いを馳せてしまえば、海賊どもはもう止まらない。
そこからはまた、いつものようにお喋りが始まる。
ウソップの高らかな嘘や、ルフィ、フランキーの豪快な笑い声。
その幸せな声の固まりは、残念ながら船内に十分届く声量だったため、
「いつまで洗ってんの!いい加減に終わらせなさーい!」
ナミの二度目の雷を呼んでしまった。
「…あいつにはヒツジに見えたらしいな」
「あ?」
力任せにTシャツを絞り
豪快な脱水を行っているフランキーが、視線を横にやって言う。
その視線の先を追いかけてみれば、大口開けて寝こける剣士。
「あんにゃろ、まだ終わってねーのにグースカいびきかきやがって…!」
起きやがれこのクソマリモ、と
サンジが肩口をガンガン蹴飛ばしてみるが
よほど泡雲羊に遠くまで誘われたのか、いっこうに目を覚まさない。
アイツとうとう根っこでも生えたか?とウソップが呆れたように呟く。
ゲラゲラと面白そうにフランキーとチョッパーは笑うが、
サンジは怒りが覚めやらないらしく、肩を上下させ荒く息をしている。
ちくしょうもう一発、と足を上げたコックの肩に、
そっと細い指を乗せてブルックはサンジを止めた。
「まあまあいいじゃないですかサンジさん。仕方ないですよ。」
だってこんなにいい天気!
洗濯日和ということは、お昼寝日和ということなのですから。
結局、ゾロの分の洗濯物もブルックが干すということでサンジの機嫌も落ち着き、
それからサンジの煙草が二本半、灰になるころには
シャツやらズボンやら海パンやらが風に吹かれてカラフルにはためいていた。
「「「終わったー!!」」」
最後の一枚のTシャツを洗濯挟みに挟み終わった瞬間に、
ルフィとウソップとチョッパーは後ろへごろりと倒れ込んだ。
洗濯板と洗い桶と石鹸での洗濯は、これでなかなか重労働なのだ。
剥き出しの二の腕に感じる芝生の冷たさが心地よい。
南向きに吹いてくる風が、干したばかりの洗濯物のしゃっきりとした香を運んでくる。
空を見上げれば相変わらず真っ青で、
今度こそ浮かぶ綿雲が羊に見えてくる。
「あー。ブルックの言ったことは本当だな」
「何がだ?ルフィ」
洗濯日和は昼寝日和だ。